辛いことの多い人生でも……『きっと乗り越えられる』に秘められた絶望と狂気?!

・ある日突然夕方に出掛けたきり、帰らぬ人となってしまった息子。それは本当に「事故」だったのか?
・夫の祖父母に預けたまま引き取れなかった息子を、やっと迎え入れられたと思えば、ろくでなしになっていた。このままではこの子はダメになる。母親の私がしっかりしなくては──。
・DV男に散々な目に遭い、家族にまで酷いことをしたのに、まだ愛しているという姉。そんな姉を守るため、男に手を掛けた妹だが……?

その他、理不尽でうまくいかない世の中を憂いながらも、どこか狂気をはらんだ衝撃的短編集!

表題作の『きっと乗り越えられる』は、まだ少年法の適用が16歳以上しか対象ではなかった頃の物語。ある日息子が外出したきり亡くなった。警察は「事故」としか言わず、新聞では息子が不良の仲間のように書かれ、次男は引きこもりになってしまう。

平和で温かだった家族がバラバラになる中、イジメられていた少年が自分をかばって暴行を受けたせいだと、本当のことを話しに来てくれた。少年法に守られた14歳の加害者の情報は、警察から被害者遺族に教えることすらできない。しかし家族は立ち上がり、民事訴訟を起こすことにする。

金銭面や社会的立場など、通常知られることのない被害者の不公平なまでに虐げられた様子を、克明に描ききった衝撃作に、少年犯罪の生々しさを見せつけられるだろう。被害者遺族も、新聞やテレビではなかなか明らかにはされず、想像以上に辛く苦しく痛ましいということが理解され広がればいいと思う。

『お前なんかいらない』はタイトルから刺激が強いが、冒頭は、夫からDVを受けて家を出るしかなかった母親がいつか子供を引き取るためにお金を稼ぎ、迎え入れる準備に奮闘している。ところが元夫が再婚し、息子が家出して10年ぶりに探し当てた母親の元に。

しかし祖父母に甘やかされ毒されて育ったせいか、息子には素直さも優しさもない。母親はあえて突き放すしかなかったが、母子の気持ちのすれ違いが取り返しのつかない哀しみを生んでしまい「何故?」と問わずにいられなくなる。

妹の優しさが姉の狂気を際立たせる『それでも愛してる』は、DV男にハマってしまった女の人生。家族よりもDV男を選んだ姉に、愛はそこまですべてを狂わせるのかと実感させられる。『妄想』では、都会っ子の怖がりで泣き虫の少年が友達に「隣の家にオバケがいる」と言ったことから、あまりにも辛くむごい結末に至ってしまう。

『麻衣・亜希子』と『麻衣・亜希子II』は間に一ヶ月置いた続き物だが、家出少女とそれを黙ってかくまったシングルマザーの切ない絆を描いている。いつの時代でも損をするのは女のようで、哀しみと憐れみが散らばっている作品だ。

どの作品からも、主に女性の絶望や悲壮感が漂うが「可哀想」と感じる中にもどこか不気味さが混じっている。運命の歯車はどこで狂ってしまったのか……他人事のようにも思えるが、いつ自分の身に降りかかるとも限らないモチーフに、狂気じみた愛が潜んでいるのが見え隠れしているのに気付くだろう。本作品のタイトルは『きっと乗り越えられる』なのに、どこか「本当に?」と疑ってしまいたくなる描写もあり、あえて心が健康な時に読んで教訓にして欲しいと思ってしまう。

【作品データ】
・作者:真田魔里子
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全1巻