色あせない料理コミックの傑作!『ミスター味っ子』

主人公の味吉 陽一は、まだ中学生でありながら、亡き父に代わって実家の定食屋を切り盛りする明るい少年。1つの店におさまりきらない独創的な料理センスは、やがて料理界の重鎮である老人(通称「味皇」)の目に止まり、その出会いが陽一の運命を大きく変えた。

味皇が主催する料理大会への出場、凄腕ライバルたちとの味勝負、海外での腕試し、そして料理界の支配を企む組織「味将軍グループ」との対決──たった1人の料理少年が多くの人たちを魅了し、幸せに導いていく物語が描かれる。

本作の連載スタートは1986年。それより3年早く生まれた『美味しんぼ』と双璧をなす、昭和の傑作料理コミックと呼んでいいだろう。シリアスな親子の対立や社会問題なども扱った『美味しんぼ』に対し、こちらの『ミスター味っ子』は少年誌に掲載されていただけあって、とにかく陽気でポジティブな作風が特徴的である。

ライバル料理人と味くらべをすることはあるが、勝負が終わったらお互いに認め合って仲良くなるのが基本。たまに食材を買い占められるような妨害があっても、陽一は「海苔の代わりにカツオ節をシート状に加工して最高の寿司を作る」など、ピンチを楽しみながらチャンスに変えてしまう柔軟さを発揮する。

また、陽一がいつも見せる「普通に美味しい料理では物足りない。もっともっと工夫すれば最高の味になるはず!」という妥協なきスタンスは、前向きに努力し続けることの大切さを教えてくれる。

もちろん、登場する料理がどれもバリエーション豊かで食欲をそそるのは言うまでもない。天才料理少年と呼ばれるだけあって陽一のチャレンジ精神は無限大。ハンバーグ、トンカツ、ラーメン、カレー、さらに駅弁、オムレツ、スイーツまであらゆるジャンルに挑戦し、その道の専門家たちを打ち破っていくのだ。「ラーメンの風味付けに大量の焦がしネギを使う」「ピザを油で揚げる」「水と生石灰の化学反応でをホカホカに温める」など30年以上経った現代でも通用するアイデアが次々に飛び出し、読んでいて飽きることがない。

近年こそ寿司、ラーメン、カレーなど1つのジャンルに特化した作品が増えてきたが、『ミスター味っ子』は“なんでもアリのお祭り感”が最大の魅力。ワクワクしながら料理コミックを楽しみたい人は、ぜひこの色あせることない傑作を読んでみていただきたい。

【作品データ】
・作者:寺沢大介
・出版社:講談社
・刊行状況:全19巻