産休教師をしている家庭科担当の土居まさし。子持ちだけれど独身で、惚れっぽい残念系眼鏡男子だ。現在はアメリカ在住だが、かつて日本で過ごした慌ただしくも愛しい日々を思い出す。生徒たちの成長や変化を見守りながら、自分もほのかな恋愛をしつつも儚く散っていく……だけではなく、息子の松五郎にアタフタさせられ、生徒のトラブルに巻き込まれ、ライバルと戦いながらも痛み分け。そんな笑える日々を描いた、ほんのり心温まる学園&ファミリーコメディ!
4本立ての短編集になる『ランチタイムがはじまる』では、冒頭で主人公のまさしが息子の松五郎とアメリカで過ごしている部分が描かれる。そして日本から届いたハガキを見て、過去を振り返るのが『雪国の二人の巻』だ。ここでは高校に赴任する予定で北海道に来たものの、記録的な豪雪の日だったために行き倒れになってしまう。気付くと見知らぬ家で保護されていたが、なんと記憶喪失に?!松五郎の存在も忘れるほどだったが、どうやら手先が器用らしく、お礼にと繕い物をしながら、ようやく自分が家庭科教師としてそこを訪れたことを思い出したのだった。
『哀しいBirthdayの巻』では、まさしは小学校の教師をしており、隣のクラスの担任の女教師にほのかな恋心を寄せている。しかし小学生はやんちゃで言うことを聞かないし、創立記念日に向けてクラス一丸となって作る制作物を決めるのにも一苦労。しかしそこは教師らしい振る舞いで子供たちを導くシリアスな場面もあり、まさしの優しさや子供に向き合う姿勢がまっすぐに描かれている。まさしの恋愛のオチはなかなか面白い展開なので、しっかり笑わせてもくれる。
第3回となる『とんだライバルの巻』では、まさしが好きになるのは松五郎を預けている幼稚園の先生。この時は女子校に赴任していて、男性教師はもう一人いる体育教師の風間と自分だけ。しかし、明らかに風間の方がモテている。体育教師と家庭科教師では差があるし、爽やか系イケメンの風間は確かにモテキャラだ。しかし、松五郎の幼稚園で二人はバッタリ!なんと風間もまた子持ちの独身者で、同じ先生に目を付けていた。お互いに自分の息子になだめられつつ、白熱するライバル闘争にはきっと笑えるだろう。もちろん、平等にオチがつくので大丈夫。
最後の『イチゴの気持ち』は番外編扱いなのか、まさしが再びアメリカに戻る前の女子校での思い出だ。全国高校家庭科コンクールに出場することに対して、生徒たちは「女子校だからと言って出場を強制するのはナンセンス」と、つまりは家庭科を拒否する。そこに赴任してきたまさしは、まず彼女たちに家庭科を好きになってもらいたいと考えるが、思春期の女子の扱いは難しく四苦八苦の戦い。もちろんラストはほっこりさせられるので、心地良い読後感が続くだろう。
家庭科と言うと、確かに学校の教科としては案外どうでもいいと思われがちだし、その担当教師が男性なら「女々しい」と思われたりもするだろう。しかし、まさしの生徒や子供たちに対するまっすぐな姿勢は、ただ勉強することを強制するのではなく、自ら率先してやろうという気持ちにさせてくれる。そして、そんなテーマをコメディタッチで描くことで、押し付けがましさのない作品となっているのだ。笑いの中に感動があり、「ああ、面白かった」と本を閉じられる気軽さもいい。
【作品データ】
・作者:樹原ちさと
・出版社:A-WAGON
・刊行状況:全1巻