イジメた奴に地獄の報復を!驚愕のサイコホラー『隣人13号』

主人公は、一見するとおとなしそうな青年・村崎十三。しかし彼には子ども時代のイジメ体験から誕生したもう一つの凶暴な人格「13号」が潜んでいた。イジメといっても小学生レベルをはるかに超え、虫を食わされる、硫酸を顔にかけられ後遺症が残るなど、凄絶なリンチと呼べるもの。十三と13号はその主犯格である赤井に10年越しの復讐を果たすため、赤井と同じアパートに引っ越し、同じ建設現場の作業員となった。

だがいよいよ悲願を果たそうとしたとき、13号が暴走を始め、ターゲットとは関係ない人間まで殺害してしまう。そのせいで警察まで動き出して復讐の歯車は徐々に狂っていく。スキあらば体を乗っ取ろうとする13号を抑え込み、十三は無事に目的を達成できるのだろうか……?

カルト的な人気を誇る作家・井上三太の代表作ともいえる『隣人13号』は、そんなストーリーのサイコホラー漫画だ。2005年には小栗旬と中村獅童のダブル主演で実写映画化され、良作として話題になった。

「凄絶なイジメを受けた気弱な主人公」
「顔つきや言葉づかい、さらに身体能力までガラリと一変する最強・最凶の別人格」
「イジメた相手の名前すら忘れて幸せな家庭を築いている元イジメっ子」

この3つのメイン要素に個性派の脇役キャラクターたちが絡み、濃厚なドラマが展開される。

復讐が目的なら13号に全部任せたら勝手にやってくれるじゃないか……と思う人がいるかもしれないが、そうならないのが本作のおもしろいところ。

十三は復讐を誓いながら気弱でやさしすぎる性格が変えられず、長く時間をかけてターゲット(赤井)の人生を狂わせるべきだと13号に主張する。社会人になっても職場であいかわらず弱者をイジメている非道な赤井に対し、どこか冷酷になりきれない。

一方の13号は、十三とは正反対で短絡的なタイプ。同じアパートに住む中年男や、ちょっと態度が悪い新聞勧誘員など無関係の相手でもムカついたら惨殺し、同じ体を共有する十三を怯えさせる。もちろんターゲット本人や、ターゲットに直接関わる人間にはもっと容赦がない。第1話の段階ではまだ十三に体の主導権があったが、これも少しずつ13号に奪われ、“復讐観の違い”を解消できないまま物語は思わぬ方向へ転がっていく。

詳しいネタバレは避けるが、最後まで読んだ人は「復讐にも意味はあった」または「復讐はさらなる犠牲を生むだけ」という2通りの感想に分かれそうだ。おそらくどちらが正しいというわけではなく、個人の感性次第だろう。

いずれにしてもラストの1ページまで高いテンションが持続し、傑作と評価されるだけの満足感はある。極端にデフォルメされた独特な絵柄と、執拗な暴力的シーンが読者を選ぶかもしれないが、そこを差し引いても一読をオススメしたい。

なお余談だが、このタイプの破滅に突き進む復讐劇が好きな人には、同じく実写映画化された漫画『ミスミソウ』(作:押切蓮介)も相性が良いはず。霊的なオカルトホラーではなく“生きた人間そのものの怖さ”を存分に味わうことができる。

 【作品データ】
作者:井上三太
出版社:SANTASTIC! ENTERTAINMENT
刊行状況:全3巻(完結)