全身真っ黒性別すら不明の主人公『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』

正体不明の人物が主人公となった作品はいくつもあります。しかし、外見まで真っ黒の主人公はあったでしょうか。小学館の月刊誌「少年サンデーS(スーパー)」にて連載中の本作『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』(かんばまゆこ)の主人公は、名前こそ「犯沢」と分かっていますが、それ以外は皆目分からないままに物語が進んでいきます。

タイトルで分かるように、人気漫画『名探偵コナン』のスピンオフ作品となる本作。『名探偵コナン』にて、犯人が全身真っ黒で表現されているのを、そのまま移行して主人公としたようです。

物語は、主人公の犯沢さんが復讐を目的として『名探偵コナン』の舞台でもある米花(べいか)町に上京したところから始まります。シェアハウスに新居を決めたり、生活費を稼ぐためにレンタルビデオショップでアルバイトを始めたりと、普通の生活を始めつつあるのですが、不動産屋で紹介される新居候補の大半が犯罪現場の事故物件だったり、怪しい人間ばかりのアルバイト仲間から事件や事故が起こる度に仕事を押し付けられたりと、米花町ならではの混沌とした状況に犯沢さんが巻き込まれます。

もちろん、『名探偵コナン』のメインキャラクターも登場するのですが、ヒロインの毛利蘭が銃弾を掴み取るような猛者だったり、阿笠博士が危なっかしい発明家だったりと、『名探偵コナン』とは異なった描かれ方をしています。そんな犯沢さん、どうやら工藤新一を殺すため米花町に引っ越してきたらしいことが明らかになっています。当然のことながら、工藤新一は江戸川コナンになっているのですけれど、それと知らないまま2人がニアミスする状況もあります。さて、目的を果たすことはできるのでしょうか。もっとも、犯沢さんの命の方が危なそうなのですが。

さて、先に皆目分からないと書いた犯沢さんの正体ですが、確実に島根県の出身であることが分かっています。直近の連載では結果的に失敗するものの、故郷の出雲に帰省しようと苦心しています。また、犯沢さんが披露した「キンニャモニャ踊り」は、島根県隠岐郡海士町が発祥の踊りです。海士町とは限らないですが、この近辺の出身であるのは間違いないでしょう。そこで工藤新一と島根県を結びつけるものを探したくなるのですけれども、実は本作の作者であるかんばまゆこ先生は、島根県の出身だそうです。そう、単にそれだけの可能性もあるんですよね。

そんなかんばまゆこ先生は、同じ小学館の漫画誌「ゲッサン」にて、巨大な髪型の主人公が迷惑をかけまくる『バレてるよ!ジャンボリーヌ』(全2巻)を連載していました。その後は、運100%で難事件を解決しまくる名(迷)探偵の池々郷(いけいけ ごう)が主人公となる『迷宮入り探偵』、錦田警部と怪盗ジャックによる丁々発止のやり取りを描いた『錦田警部はどろぼうがお好き』を不定期連載していました。つまり、ミステリー漫画界の夜空に輝く星の1つだったんです。もっとも『名探偵コナン』が巨星だとすれば、『迷宮入り探偵』や『錦田警部はどろぼうがお好き』は、梅干しか物干しくらいの存在だったのですけれども。

その『迷宮入り探偵』と『錦田警部はどろぼうがお好き』が、この10月に未収録分を含めた新装版にて発売されすることが決定しました。『錦田警部はどろぼうがお好き』が「次にくるマンガ大賞2018」コミックス部門で3位を受賞したこともあるのでしょうが、間違いなく『犯沢さん』人気の余波でしょう。しかし、かんば先生がpixivに寄せたイラストには、「便乗? NON NON 実力さ!!」とあります。便乗か実力かは、新装版の売れ行きで分かるでしょう。

『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』が、どこまで続くのか。何となく最終回を迎えてしまった『迷宮入り探偵』や『錦田警部はどろぼうがお好き』が再開されることはあるのか、どちらも楽しみにしたいと思います。

【作品データ】
作者:かんばまゆこ
出版社:小学館
刊行状況:1~2巻(以下続刊)