麻雀漫画の枠を超えた”怪作”に心がアツくなる!『天 天和通りの快男児』

『賭博黙示録カイジ』『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』『銀と金』など数々の傑作を生み出し、ハードな勝負の世界を描き続けるギャンブル漫画界の鬼才・福本伸行。そんな福本氏が才能を一気に開花させた作品があるのをご存知だろうか? 今回は1989年から2002年まで連載され、ファンの間で語り継がれる出世作『天 天和通りの快男児』の魅力を紹介したい。

主人公の天 貴史は、顔のあちこちに傷がある麻雀の打ち手。ヤクザなど裏社会の絡んだトラブルが起きたとき、当事者から依頼されて麻雀勝負をする「代打ち」稼業だ。天は勝つためならイカサマもやるが、それは常に弱い者を助けるため。不正をした代償として敵側に殴られても斬られても、自分の生き方を決して曲げない”覚悟”を持っている。

イカサマに頼らなくても一流の腕前を誇る天の前には、伝説的な天才ギャンブラー・赤木(スピンオフ作『アカギ』の主人公)や、ヤクザの親分であり自らも現役最強の打ち手と呼ばれる原田など、スゴ腕の敵が立ちはだかる。

やがて戦い続けるうち、リーダーとして東日本の打ち手を率い、西日本の強豪たちと巨額の”代打ち利権”を賭けた「東西戦」に挑むことになった天。その麻雀勝負の行方は……?

本作の特徴はいくつもあるが、上にざっくり述べたストーリーの中で作者が成長するのに合わせ、作風がどんどん変わっていったのが一番の見どころだろう。

今でこそ日本を代表するギャンブル漫画家の福本氏だが、意外にもデビュー当初は人情ドラマ重視の作家で、何度も連載打ち切りを食らっていた。この『天』序盤も、そんな人情あふれるエピソードが中心となっており、イカサマが連発される麻雀シーンは話を進めるための一要素にすぎなかった。

だがしばらくすると作風が一変、安っぽいイカサマよりも「相手の手牌を読む」「相手を心理的なワナにはめる」という勝負シーンに重点が置かれるようになり、よく知られている現在の福本テイストになる。まさに秘められた才能が、ここで花開いたのだ。

純粋な麻雀重視になってからは強豪同士の心理戦が非常にアツく、たとえイカサマをやるにしても常人では真似できない、超ハイレベルな手口が採用されている。さらに、ただ点数を競う通常の麻雀におさまらない「満貫縛り」「クリア麻雀」といった特殊ルールも登場し、すべて名勝負と言っても良いほどスリリングな戦いが連発される。

実はこの作品、終盤でもう一度作風が変わるのもユニークなところ。

長編となった東西戦のあと、ある重要キャラクターが死を迎える展開になり、まさかの「通夜編」がスタートするのだ。生きるとは何か、人はどう死ぬべきか……麻雀誌で連載される麻雀漫画なのに、麻雀シーンが登場しない哲学的なエピソードが延々と続き、しかもそれが心に響く。 間もなく連載開始から30年になる本作が、いまだファンの中で特別扱いを受ける大きな理由と言っても良いだろう。

『カイジ』などで福本作品を好きになった人には、ぜひこの濃密なドラマの詰まった『天』も読んでみていただきたい。基本的な麻雀ルールさえ知っていれば、ラストまで文句なしに楽しめるはずだ。さらに本作に脇役として出てきたキャラクターが主人公を務めるスピンオフ『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』『HERO -逆境の闘牌-』もあり、あわせてオススメである。

【作品データ】
・作者:福本伸行
・出版社:竹書房
・刊行状況:全18巻