主人公の真壁京子は気象予報士。しかし、そこに至るまでにはいくつかの職を転々としていた。短大卒業後は、親が勝手に取り付けた面接に合格してしまったため、初めてのOL生活は輸入車ディーラーの店員からスタート。その仕事を辞めたいがためだけに目指したのはスチュワーデス(現在のCA)。しかし根が頑張り屋の京子は、無事スチュワーデスとなり、充実した生活をしていた。それなのに、「航空性中耳炎」にかかってしまい、スチュワーデスを続けていれば、耳が聞こえなくなると医師に言われてしまう――。
数多くある「お仕事漫画」の中でも、表題作である『お天気に恋して』の中で京子はさまざまな職を経験しているところが興味深い。給与が高いというだけの理由で、テレビに出るバイトもしていたけれど、どんな職種にいてもその業界の黒い噂は聞こえてくる。天職だと思っていたスチュワーデスを辞めざるを得なくなってからは、まただらだらとテレビのバイトをしていたが、気付けば自分ももう27歳。周囲に合わせて笑顔を振りまいているだけでは、いずれ切り捨てられてしまうと気付く。
そこで見つけた「気象予報士」というあまり耳慣れない職種。この単行本が出版されたのが2004年で、雑誌に掲載されたのはもう少し前であるため、当時は気象予報士が国家資格となって間もなかったこともあり、認知度はかなり低かった。そんな中、スチュワーデス時代に何度か一緒にフライトした機長が言っていた「空はすごいよ」という言葉を思い出す京子。そこから彼女の国家資格取得に向けての猛勉強が始まるのだが、合格率が4〜5%と言われる超難関試験に挑みながらも、あちこちで嫉妬や陰口を聞いたり、人の優しさや努力を見てくれている人に出会うなど、さまざまな要素が絡み合っていく。
同時収録されている『スウィートソウル・バージンロード』では、ウエディングプランナー1年目の新人・矢島心の頑張りや空回り、傷心や奮闘が描かれている、表題作とはまた違ったタイプの2本目の「お仕事漫画」だ。『お天気に恋して』とは舞台も登場人物も異なる。心は服飾科を2番で卒業し、目指す夢は自分がプランニングしたカップルのドレスを作ること! しかし、ここでも彼氏の浮気や仕事での失敗など、とても他人事とは思えないような出来事が起こる。
純粋に、今で言う飛行機の客室乗務員や、文字通り自分で気象を予報して伝える気象予報士、それにウエディングプランナーなどを目指す人が読めば、非常にためになる格言のようなものもあるが、ごく普通の少女漫画として読んでも、十分に泣けて笑える魅力がある。絵柄も少女漫画のわりにはそれほど華美ではないし、コミカルなキャラクターには親しみを覚えて、応援したくなるだろう。時には寄り添って、一緒に涙することもあるかもしれない。
将来の夢がないとか、自分にできることが何なのかわからないとか、誰しも一度はぶつかる壁が立ちはだかったとき、京子や心を思い出すと非常に心強くなれると思う。短編2編で1冊となる単行本だが、どちらもページ数以上に読み応えがあるので、自分の中で迷いが生まれたり、悩みが芽生えたときに読んでみると、成功者に声を掛けられるよりもずっと元気や勇気をもらえるはずだ。誰かに促されてではなく、自分から進んで前を向ける漫画だと言えるだろう。
【作品データ】
・作者:くりた陸
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全1巻
※記事掲載時において本作品は「ビューン読み放題スポット」でご覧いただけますが、今後変更となる場合もございます。
★ビューンのサイトでも、作品紹介をご覧いただけます。詳しくはこちら★