読者の予想を超えてくる戦慄の“社畜”ホラー!? 『食人上司男衾課長』

業績や雇用データが改善されてきたとはいえ、まだまだ社畜・パワハラ・過労死などネガティブな単語が飛びかう日本の企業。そんな社会の闇をサイコホラー風味に描ききった『食人上司男衾課長』を今回は紹介したい。

サラリーマンである主人公の部署へ、本社から異動してきた男衾(おぶすま)課長。やり手とのウサワどおり仕事はスムーズ、部下に対しては気配り上手、しかも爽やかなイケメンという“理想的”上司だった。だがちょっとした違和感が生まれる。男衾課長の補佐役についていた先輩社員が急に出社しなくなったのだ。心配した主人公が家を訪ねると、まるでゾンビのように憔悴しきった先輩がいた。

そこで先輩は主人公に告げる。「あそこには食人鬼がいるんだよ…」と。

ここまでが第1話なのだが、うまいところは、この時点で「タイトル通りのゾンビ感染パニック漫画かな?」とミスリードさせる構成力だ。 実際は超常的クリーチャーなど登場せず、すべて生身のキャラクターだけで話が進んでいくわけだが、読みながら少しずつ「やっぱり人間が一番怖い!」と思い知らされることになる。

次に課長の補佐役となった社員も同じように弱っていき、やがて倒れるが、男衾は元気なままで業績も好調。ついに主人公が補佐役を命じられ、ここから真の恐怖がはじまる――!

ネタバレなので詳細は伏せるが、この後、主人公は男衾から有形無形のとてつもないプレッシャーを与え続けられ、先任者たちのように生き地獄を味わうことになる。さらにストーリーは二転三転、会社という閉鎖空間で起こりうる恐怖をこれでもかと見せてくれる。いずれ読者は“食人鬼”という言葉が何を意味していたかを知るだろう。

ゾンビホラーめいた導入から、サイコ(サイコパス)ホラーへ発展し、予想できないラストへと続いていく本作。単行本1冊ほどのボリュームながら内容は濃密で、読んだ後の満足感というか、ぐったり感はなかなか普通の漫画では味わえないはず。

サイコ路線の社会派ドラマが好きな人、または並レベルのホラーでは怖がれなくなったという猛者まで、積極的に手にとっていただきたい良作だ。

【作品データ】
・作者:野口千里(参考文献『クラッシャー上司』 著者:松崎一葉)
・出版社:クリーク・アンド・リバー社
・刊行状況:全8話