「生きててごめんなさい」なんて言わせないで……『傘寿まり子』には誰でもなる!

【あらすじ】
80歳を迎えた作家・まり子は、まだまだ心身ともに健康ではあるけれど、やはり老いには抗えない。若い頃のようなスピードでは作品が書けなくなっているし、周囲の人からみれば十分に「おばあさん」なのである。それでも誰にも迷惑をかけないように気を遣って生きてきた。このまま人生が終わるまで、既に他界している夫の残してくれた大切な家を終の棲家にしようと思っていたのに……?

【みどころ】
WHO(世界保健機関)加盟国194カ国を対象に毎年行われている、平均寿命ランキングでは常に上位にランクインし、長寿大国と言われている日本。しかし一方では少子化が問題視され、高齢化社会に危機感を覚えている若者が少なくないのも事実だ。まさに少子高齢化の典型をひた走っていると考えている人も多いだろう。自分の子育てをしながら、親の面倒も見ているというのは、当たり前のように聞こえるかも知れないが、それは決して楽なことではない。皮肉なことに、やはり正直に言えば、親よりも子供に手をかけたいというのが若者の本音だったりする。みんな、自分のことでいっぱいいっぱいなのだ。

そんな今、話題になっている漫画が『傘寿まり子』だ。主人公は、ベテラン作家の幸田まり子という、80歳のおばあさん。「傘寿」というのは、60歳を「還暦」を呼ぶように、長寿を祝った呼び方である。頭も身体も元気ではあるが、やはり加齢による疲労感や、低下していく行動力には逆らえない。出版社の担当者にも心配され、できる仕事量も減り、作家仲間も亡くなったりして、自分も物忘れをすることが増えたと実感している。死んでしまった人を、葬儀にまで行ったのに忘れていたこともあるのだから、「これが加齢か……」という心配は抜けない。

まり子の夫は15年前に既に他界しており、現在は夫の建てた大好きな我が家で、孫がデキ婚の挙げ句に子連れで出戻ったこともあり、4世代同居をしている。まり子にとってはこの家が終の棲家になるはずだった。しかし、本人の知らないところで家族が家の建て替えを検討していることを知る。家も狭くなるし、このままではいけないと相談しては口論をしている子供たちの話を聞いて、「自分が生きているせいで、あとがつかえている」と感じてしまうまり子。そして追い打ちをかけるようにかつての作家仲間がまた一人亡くなり、それが孤独死だったと聞いた。

ほとんど訪れる人のいない寂しい弔問に訪れた際、亡くなった仲間も4世代同居で、それなのに自室で発見されるまで3日かかったと知る。純粋に遺族に弔慰を述べようとまり子が声を掛けた女性は、イライラした様子で「嫌味ですか」と怒りを露わにしてまり子に食ってかかった。そして「自分の生活でいっぱいいっぱいで、年寄りにまで気を配れない」と言い放つ。まり子は思わず、その見知らぬ家族に泣いて謝ってしまった。「まだ生きててごめんなさい」と……。忙しさのあまり高齢者をぞんざいに扱ってしまう家族の本音もわからなくもないが、見ていて切なくなるくらいに罪悪感に苛まれているまり子が不憫でならない。

自宅も夫がいた頃とは変わってしまうし、自分はもうここにいても仕方がないと、自分の新たな居場所を求めて家出を決意したまり子は、80歳にして人生の再スタートを切る。家族への遠慮がなくなった分、生きやすくはなったもの、年齢的に多くの波乱や困難も待ち受けている。高齢者なりに、自分のせいで家族に迷惑はかけたくないという思いがあるのに、生きているというだけで罪悪感を感じさせたくないものだ。人生100年時代、傘寿はまだまだ人生の通過地点でしかない。そしていずれは若者も高齢者になるのだから、心の余裕や敬う心を失わないで欲しいと願うばかりだ。

【作品データ】
・作者:おざわゆき
・出版社:講談社
・刊行状況:1〜6巻(以下続刊)