プロ棋士たちの美味しい盤外戦『将棋めし』

今、将棋界がアツい。天才・藤井聡太六段の快進撃、羽生善治氏の「永世7冠」達成、新たなタイトル戦に昇格した「叡王戦」、盤外では「ひふみん」こと加藤一二三氏の人気など、ルールを知らない人ですら“棋士”の姿を目にする機会が増えてきた。

現実でのブームを反映して将棋を扱う漫画が増える傾向にあり、さらに日本漫画のお家芸と言えるグルメをかけ合わせた作品も登場している。ネットで話題のその漫画は『将棋めし』(松本渚/メディアファクトリー)だ。

主人公の峠 なゆた六段は可憐な女性でありながら、男性とも真っ向からタイトルを奪い合う実力派プロ棋士。そして対局中に「対戦相手と食事メニューがかぶるのが嫌」「相手が“竹”のグレードを選ぶなら自分は“松”を注文する」など、食べ物に関して高いこだわりを持っているキャラでもある。寿司を見ては将棋の駒組みを思い出し、カレーを食べながら逆転の策を閃く。そんな彼女の将棋&めしライフが軽快なテンポで、時には重厚な勝負シーンを伴って描かれている。

将棋と食べ物をミックスさせた漫画こそ珍しいが、これまで現実の世界でも棋士・食べ物の話題はしばしばメディアで取り上げられてきた。たとえば藤井六段も例外ではなく、連勝フィーバーの時は彼が対局中に食べたおやつが人気になったり、対局中に注文したメニューが大々的に報じられたりしていた。

激戦を続けるプロ棋士にとって食事は単なるエネルギー補給手段ではなく、縁起かつぎ、相手に揺さぶりをかける盤外戦のネタにもなっているというから、いずれ『将棋めし』のような漫画が生まれてくるのは必然だったのだろう。スマホゲームなど娯楽の多様化した現在において、案外こうした着眼点からの作品が、将棋人口を増やしていく助けになるかもしれない。

【作品データ】
作者:松本渚
出版社:メディアファクトリー
刊行状況:3巻まで(続刊)