“最強の殺し屋”が日常に溶け込んだ殺伐系コメディ『ザ・ファブル』

【あらすじ】
平和な日本の裏社会で暗躍し、最強の殺し屋と呼ばれる男・通称「ファブル」。あまりに人を殺しすぎたファブルは上司のツテで一般人の身分を手に入れ、誰も殺さず1年間平穏に暮らすよう命じられる。佐藤明という名前を与えられたファブルは、仕事のアシスタントである女・佐藤洋子とともに“偽名の偽装兄妹”として大阪での新生活をスタートするのだが……!?

【みどころ】
もしも強すぎる暗殺者を一般社会へ放り込んだらどうなるか――そんなテーマをアクションと日常コメディの両面から描いた作品である。

作中に登場する「ファブル」は正確には主人公・佐藤明だけのことではなく、彼が所属する殺し屋組織の呼び名。あまりに現実離れした強さのため、FABLE(=寓話)と喩えられ、裏社会でも都市伝説のように語られている存在だ。明の戦闘力もまさに伝説級で、底知れない迫力をもつ上司から「天才」と呼ばれるほど。ヤクザはもちろん同業の殺し屋も圧倒し、野生のクマすらやすやすと退ける。

ヤクザの管理する物件に住んでいる関係で、本人の意志と関係なく荒っぽい事件に巻き込まれることが多い明。しかもたまたま入ったバイト先に真性サイコパスのストーカーがいたり、トラブルには事欠かない。普通の主人公なら慌ててしまうところだが、そこは伝説の殺し屋。身の回りにあるものを何でも利用して武器に仕立て、散歩するかのような気軽さで解決していく。「誰も殺さない」という上司との約束を守りながら、暴力のプロたちを震え上がらせる様子はカタルシス満載だ。

これだけ見れば『ゴルゴ13』のように殺伐とした暗殺プロフェッショナル漫画を思い浮かべるかもしれないが、『ザ・ファブル』がおもしろいのは、主人公が殺しを禁じられているという設定、そしてギャグと人間ドラマにあふれた日常パートの存在だ。

修羅場にめっぽう強い一方でものすごい猫舌だったり、微妙な持ちネタのお笑い芸人に大爆笑したり、人々を和ませるゆるキャラを描くセンスがあったり、意外な面も明の魅力。さらに初めて一般人として生活を送る中で「相手が笑うと自分もうれしい」といった人間味を獲得していき、ちょっとした場面でジーンとさせられることも多い。こうした日常風景と激しいアクションシーンが交互に展開され、物語は進んでいく。

タイトルから中身が想像しにくい、絵柄にややクセがあるなどの理由からとっつきにくい感じもするが、読んでみると非常に完成度の高い作品だ。講談社漫画賞(2017年)の受賞はダテじゃない。ある程度のバイオレンス耐性がある人には特にオススメしたい。

【作品データ】
・作者:南勝久
・出版社:講談社
・刊行状況:13巻まで(以下続刊)