【あらすじ】
平和な日本において、数億単位の金銭や人命までもがやりとりされる「賭けダーツ」の世界。そこに集まる天才ダーツプレイヤーの中でも、ひときわ異彩を放つ最強の男がいた。“迷路の悪魔”という異名をもつ青年・烏丸 徨。なぜ彼はそんなに強いのか、なぜ彼は命をかけてまで勝ち続けなければいけないのか。その謎は凄惨な試合を重ねるごとに、少しずつ明らかになっていく……。
【みどころ】
『アカギ』『ワンナウツ』『喧嘩稼業』のように、“悪役よりも悪党な主人公”の漫画には一定のファン層がついている。本作もまさにそのタイプだ。
烏丸は主人公であり最強無敗のダーツプレイヤー、スーツに身を包んだ細身の青年。完璧すぎるように見えるが、実は自分の家にもまっすぐ戻れないほど方向感覚がなく、機械オンチ、グラマーな女性に弱いといった欠点も抱えている。
そんな彼が試合場に立てば、欠点は消え去って文字通りの悪魔となる。ヤクザが仕切って多額の金が動く試合なので、対戦相手も尋常ではない。「人を平気で轢き殺す金貸し」「賭けの敗者を“拘束して飼う”ことに悦ぶ異常者」「覚悟を示すため自分で首吊りしてみせる求道者」など、それぞれ普通の漫画ならラスボスを張れるクセ者ばかりだ。しかも試合ルールも「外れのマトに当ててしまったらその場で焼き殺される」「高得点を狙いたければ自分の利き手を刺されないといけない」など、これまた発案者の正気を疑いたくなるもの。
烏丸は序盤こそリードを許す展開が多いが、どんな難敵でも弱点を見つけ出し、心理的な罠にハメて絶望させながら倒しきる。逆転シーンで飛び出す「ここが行き止まり(デッドエンド)だ」が、最高にカタルシスあふれる決めゼリフとなっている。
ダーツというのは小さなマトをお互いに狙って高得点を競うのだから、もし両者が絶対にマトを外さない天才なら決着は付かないのでは? そんな読者の疑問に対して「心が揺れたほうが負ける」と明確な答えを提示し、またその答えこそ物語のラストまで含めた作品テーマ全体につながってくるという、構成力が見事である。
毎度ハラハラの試合展開あり、個性的すぎるキャラあり、残虐シーンあり、お色気とギャグあり。それでいて全6巻とコンパクトで非常に読みやすい。今のところアニメ化などもされておらずメジャータイトルとは言えないかもしれないが、文句なしにオススメしたい良作だ。
【作品情報】
・作者:田中一行
・出版社:講談社
・刊行状況:全6巻(完結)