日本文学とゾンビ活劇、奇跡の融合!『こころ・オブ・ザ・デッド~スーパー漱石大戦~』

文豪・夏目漱石の代表作『こころ』。海外向けに翻訳もされており、英語版はAmazon.comのレビューでは平均4.5以上を取るなど、日本が世界に誇る国民的文学でもある。

その『こころ』が漱石没後100年に当たる2016年、超ド級アクション+ラブコメ漫画『こころ・オブ・ザ・デッド~スーパー漱石大戦~』として甦った。敵は日本中に溢れ返るゾンビ軍団である。何を言っているかわからないと思うが、まあ聞いてほしい。

主人公の「私」は冒頭からチェーンソーを使いこなすゾンビハンターとして登場し、彼に多大な影響を及ぼす「先生」は、兵法に通じた柳生新陰流の達人である。清純ヒロイン「お嬢さん」を先生と奪い合う親友「K」は熊殺しの名を持つ手練だ。

このように原作から飛躍した設定から当然思い浮かぶであろう「どうしてそうなった」という突っ込みは、むしろ作者たちの手の内だ。しかも先生とKとお嬢さんの三角関係や、友情と恋の板挟みとなった先生の葛藤など、原作の根幹は健在なのである。

戸惑いという名のファーストインパクトは、本編を読み進めていくうちに原作の堅苦しいイメージを裏切られていく心地よさに変わっていく。しまいに作者たちが壮大な拡大解釈にどう収拾をつけるのか気になって仕方なくなってくるのだから面白恐ろしい。

そう、お嬢さんが半ゾンビ化し、別の漱石作品の登場人物である「坊っちゃん」がゾンビ軍団に鉄拳を振るうなど「ありえない」展開の連発でも、本作の基本はあくまで漱石が100年以上前に書いた『こころ』なのだ。それがこの作品の恐ろしさといえる。

漫画が小説に並ぶ身近な娯楽となった現代日本、本作もまた多くの翻案を生んだ名作ならではの変化球…、としておこう。

が、これほどまでに読者(私)の度肝を抜いた本作、なんと掲載サイトでは2017年2月から更新がいったん休止となってしまったのである。連載開始当時はインターネット界隈では相当な話題だった(と思う)のに1年後にこれとは、業界の諸行無常とはこのことである。

ああ悲しい。ああ寂しい。

しかし彼らとゾンビの戦いは終わったわけではない。この際いわゆる同人誌とかいう薄い本でもいいから、なんとか完結してくれないだろうかと、私はゾンビフィーバーのような激しい飢餓感とともに切望しているのである。

【作品情報】
・作者:原作:夏目漱石 アメイジング翻案:架神恭介 漫画:目黒三吉
・出版社:泰文堂
・刊行状況:1巻(完結?)