変わらない街 大阪ミナミの景観を楽しむ『ミナミの帝王』

今、大阪ミナミに“バブル”が訪れている。訪日外国人の増加が著しいこの土地では、アジア圏を中心に観光客が急増。それに伴い心斎橋の基準地価は上昇率29.7%(読売新聞調べ)と、全国3位の伸び率を誇っている。「爆買い」という言葉もすっかり定着し、浪速の商人達にとっては笑いが止まらないというのが現状だろう。

竹内力主演でドラマ化もされた、国民的長寿漫画である『ミナミの帝王』の連載開始が1992年。連載初期の本作、ドラマを観返してみると、当時と変わりない街の様子を確認することができる。主人公は、ミナミを拠点にトイチ(10日に1割の暴利)で金融業を営む萬田銀次郎。「ミナミの鬼」と呼ばれる銀次郎は、一癖も二癖もある顧客達に対して、どんな時でも1円の取りっぱぐれもない。金貸しとして、あの手、この手を使い徹底的に悪人を追い詰めていく模様が描かれている。ほとんどの登場人物がコテコテの関西弁を駆使し、その言葉遣い、暑苦しいまでの人間模様は“大阪らしさ”が隅々まで散りばめられており、混沌としたミナミの街を良く理解できる。また、社会問題を題材にした物語も多く、時には心温まる展開があるのも、幅広い読者層の心を掴んでいる所以だろう。

観光客の訪日バブルに関しては、大阪府民からは良くも悪くも様々な意見を耳にする。変化に適合するかのように開発が進む梅田など変わりゆく場所が多い中、20年前と変わらぬ景観を保つミナミの特殊性は一層際立つ。ふと、なんばの飲み屋に立ち寄ると、原作者である天王寺大の写真が飾られているのを目にした。天王寺大が愛したこの街は、バブルが到来しても、弾けても、最も大阪らしさを感じる場所としてあり続けるはずだ。

 

【作品データ】
・原作:天王寺大 作画:郷力也
・出版社:日本文芸社
・刊行状況:130巻まで(続刊)